日本酒業界で論争 「吟醸」「精米歩合」記載すべき?〈週刊朝日〉

日本酒には「純米」「純米吟醸」「大吟醸」といった種類、「特定名称」があるが、実はラベルに記載する義務はないという。特定名称をラベルに書かなければ、精米歩合の記載も必要ないのだが、この問題について、業界関係者の間では意見が分かれる。

 日本酒プロデューサーの中野繁さんは、消費者には「知る権利」があると主張する一人。いわば“データ派”だ。

「やはり精米歩合の表示は、酒蔵に義務づけるべきでしょう。日本酒は、スペック(仕様)でその正体がある程度わかる。つまり米の品種や精米歩合、日本酒度、粕歩合などで、だいたいの原価を知ることができます。それをもとに消費者は価格が妥当かどうかを判断することができる。客観的データを公開すべきでしょう」

 酒造技術の研究と技術指導に50年以上携わる堀江修二さんも、業界の将来を見据え、情報公開を促す。

「精米歩合を、科学的に分析して証明することは不可能に近い。だからこそ特定名称を蔵元に申告させているのだから、精米歩合を示さないと消費者をごまかすことにならないか。契約農家が作った山田錦の特上米のような高価な原料を使う蔵元は、米の品種さえ書いている。良い米を使い、きちっと造っている真面目な造り手ならば21世紀も生き残るはず。消費者目線で考えないと、日本酒全体のマイナスになります」

 一方、そうした意見に反論もある。日本酒は頭で飲むものではない、と言う“直感派”たちだ。東京・四谷にある嘉永3(1850)年創業の地酒販売の老舗「鈴傳(すずでん)」の岩田和士さんが言う。

「うちのお客さんは暖簾で信じて買ってくれるので、銘柄選びは『おまかせで』がほとんど。これが日本酒本来の楽しみ方で、業界はデータにとらわれすぎている。いくら消費者が数字で判断して買ったとしても、実際の味と違うことはよくあるし、安いほうがおいしい場合だってある。こちらが『おいしいから、とりあえず飲んで』と差し出し、お客さんが『あ、うまいね』と応じる。本当においしい酒に、言葉はいらないです」

『空飛ぶ〓酒(ききざけ)師』の著者できき酒師の鵜飼仁美さんも、ある出来事をきっかけにデータ重視だった考え方を改めた。

「3年ぐらい前、鳥取の山根酒造の『強力(ごうりき)』という酒を飲んだ際、強烈なコクと味の幅を感じました。精米歩合80%(20%を削る)と磨いていないのに。蔵元に聞くと、育て方を工夫して酒造りにはあまり必要でない脂肪分とたんばく質が少ない米を作っているからといい、精米歩合55%(45%を削る)ほどと一緒になるという。頭をガツンと打たれた感じで、日本酒は数字で測れないことを思い知りました」

 業界関係者に賛否が渦巻く日本酒の表示の仕方だが、データ派と直感派に共通していたのは、「吟醸技術が発達した今、日本酒は史上一番おいしくなっている」との見解だった。