Twitterは何を仕掛けようとしているのか?マーケ、テレビ、政治…日本法人に聞く

世界における1日の総ツイート数は約4億、アクティブユーザは約2億人、35言語でサービスが提供されているTwitter。もはや世界的な情報インフラとして、Facebookと共に2大SNSとして取り上げられることも多いTwitterであるが、東日本大震災に際して無数の災害/避難情報を提供し、人々のライフラインとして機能し、最近ではテレビとの連動、ネット選挙解禁などでも注目を集めている。

 また、実はTwitterの日本語ユーザーは英語に次ぎ世界で2番目に多く、広く日本に浸透していることがうかがえる一方、日本における運営元であるTwitter Japanの実態については、あまり知られていない面もあり、以前一部ネット上では「Facebookと同じ住所?」などと話題になったこともあった。

 今回はそんなTwitter Japanのパートナーシップディレクター・牧野友衛氏に、

「Twitterが爆発的に普及した理由」
「Twitterのビジネスモデルと収益源」
「テレビ、マーケティング、災害対策、政治など、あらゆる分野におけるTwitter活用の最前線と今後の展開」

などについて聞いた。

--そもそもTwitterというサービスは、どのようにして生まれたのですか?

牧野友衛氏(以下、牧野) Twitterは「どこにいても自分の状況を知人に知らせることができ、また知人の状況も把握できる“リアルタイムの情報共有”」というコンセプトのもとに、米国のエヴァン・ウィリアムズ、ビズ・ストーン、それからジャック・ドーシーの3人によって開発され、2006年7月にサービスが開始されました。「投稿できる文字数がなぜ140文字なのか?」という質問をよく受けますが、それは当時のアメリカで利用されていた携帯電話のSMS(short message service)を前提としているからです。つまり、SMSには160文字という文字制限があり、そのうちの20文字分をユーザー名の表示に充て、残りの140文字で自由につぶやけるようにしたわけです。

 また、「どうして文字数を増やさないのか?」という質問も受けますが、それは日本の“わびさび”のように、「物事を純化し、シンプルにすると本質が見える」という思想で開発されているからです。ただ、140文字という少ない文字数だからこそ、「気軽に使えるサービス」ということで、これほど普及したともいえるわけですね。

--同じようなサービスを提供している競合企業はありますか?

牧野 Twitterには3つの特徴があります。まず、基本的に公開されているということ。それから、リアルタイムで更新されるということ。そして3つ目はテキストを中心とした情報共有ということです。この3つすべてを提供しているサービスは、ほかにはないと思います。

 それから、よく誤解される点ですが、重要なことは「Twitterはソーシャルネットワークではない」ということです。ソーシャルネットワークというのは、友達、同僚、あるいは家族という、いわゆる“人と人のつながり”です。しかし、Twitterの場合には必ずしも“人と人のつながり”である必要はありません。つながるのは、芸能人個人でもいいし、企業でもいい。つまり、そのインタレストグラフ【編註:興味や趣味から、スキル、資格、実績などまでを網羅し、つながり方を表した物事の相関図。マーケティングなどで注目されている概念】を見ると、“人と人のつながり”だけではなく、人とその人が関心を持つモノやコト全般とつながっていることがわかります。ですから、ソーシャルサービスではありますが、ソーシャルネットワークではありません。これもTwitterの大きな特徴だと思っています。

--日本でのTwitterの利用状況を教えてください。

牧野 Twitterを運営しているTwitter, Inc.は非上場で業績などを開示していないので、具体的なユーザー数は申し上げられませんが、日本は世界で2番目にTwitter利用者が多い国です。英語以外の言語では日本語のサービスを真っ先に開始しましたし、最初の海外拠点も日本に置いたわけです。「世界で最もブログの数が多いのは日本だ」と聞いたことがあります。テキストで情報を配信していくTwitterのようなサービスは、結構日本人の嗜好に合っているのではないかと思いますね。

--日本がそれほど大きな市場であるということは、日本におけるTwitterの運用を担うTwitter Japanの社員数も多いのでは?

牧野 いえ、数十名ほどです。Twitterのような投稿型のサービスは、プラットフォームを使って運用するのが基本なので、それほど多くの手が必要になることはありません。ただ、今後新しいサービスを導入し、そのサポートをしていくということになれば、現在の人数では足りないと思います。

利用者がTwitterの新サービスを生む?

--新しいサービスは、どのようにして開発されているのですか?

牧野 どちらかというと、我々が新しいサービスをつくってその利用を呼びかけるというよりも、利用者の方々がTwitterをどのように使っているか分析し、そこから新たなサービスを考えるようにしています。

 昨年9月に「ライフライン」という機能を追加しましたが、これも東日本大震災が発生したときに利用者の方々がどのように使っていたかを参考にして、開発しました。災害時に正しい情報を取得できるようにということから、Twitterのアカウントを持つ官公庁や市町村、それから公共交通機関などが配信する災害関連情報を一覧することができます。さらに郵便番号を入力すれば、地域を絞って表示することも可能です。この機能は日本発の機能で、アメリカなど海外ではこのように使うという発想はなかったのですが、昨年10月にハリケーン「サンディ」がニューヨークを襲ったとき、ニューヨーク市やメディアなどがTwitterで避難所の場所や停電のエリアなどをツイートしていて、日本以外の国でも災害時に使えるのではないかというようになりつつある感じですね。

--Twitter Japanの主な業務について教えてください。

牧野 サービス自体は主にアメリカを中心として開発していますので、日本を含めた海外拠点の重要なミッションは、Twitterをいかに普及させ、ユーザーを増やすかということです。そのために、企業、個人を問わず、テレビ局や音楽レーベル、スポーツ選手やチーム、団体、業界などでのTwitterの効果的な利用方法をご提案し、利用拡大に注力しています。

 例えば、Twitterを使って番組に対する意見などを投稿してもらう際に、番組で指定したハッシュタグ【編註:あるテーマ「abc」について投稿する際に「#abc」として投稿すると、「#abc」が含まれた投稿を一覧できる】を入れてもらうことで、テレビ番組の進行と並行して、その番組を見ている人たちの意見や感想をリアルタイムに集め、それを番組中に紹介することもできるわけです。このようにテレビ局などがTwitterをマーケティングとして使う、あるいはファンとのコミュニケーション手段として使うというような試みの提案やサポートをしています。

 これはあくまでもTwitterをたくさんの方々に利用してもらうために行っていることなので、お金を頂いてサポートしているわけではありません。

--そうすると、御社の収益源はなんですか?

牧野 収益源は、データライセンス事業と広告事業です。前者は、ライセンス契約を結んだ企業にツイートデータを提供するというものです。例えば、ヤフーさんやNTTドコモさんは、あるキーワードでTwitterの投稿をリアルタイムに検索できる「リアルタイム検索サービス」を行っていますが、そのようなサービスが可能なのは、弊社がライセンスを供与しているからです。

 企業は、自社あるいは自社の商品、ブランドに関して、Twitter上でどれだけの人がどのようなことをつぶやいているのかを集計・分析するために、ツイートデータを利用することができます。自社だけではなく、競合他社の製品名も含めて分析すれば、競合他社の製品に比べて、自社製品のどこに強みがあり、何が弱みかということを把握することも可能になり、製品開発にも役立てられます。また、Twitterで誰かがある企業や商品に関するクレームをつぶやいているような場合に、企業がTwitter上でそのクレームに対して直接コメントを返すことで、クレームが拡大するのを未然に防ぐというような利用も可能です。これはアクティブサポートと呼ばれるもので、最近では多くの企業が行っています。

 このようにツイートデータはさまざまな利用が可能ですが、その利用に当たって企業とライセンス契約を結んで、データを提供しています。

Twitterとテレビの新しい関係

--今いちばん力を入れている事業分野は、なんでしょうか?

牧野 大きく言えば、テレビですね。テレビ番組の中でTwitterを使ってもらうということに関しては、世界的に注力しています。先ほどもテレビ番組へのサポートについて紹介しましたが、テレビ番組を見ながらツイートし、視聴を共有するユーザーが増えています。その結果、今何が起きているかというと、あるテレビ番組に関する投稿をきっかけとして、それまで見ていなかった人もその番組を見るようになるといわれています。つまり、投稿を見ることで、みんながその番組を見ている、だから「その番組を見よう」という行動を取り、その番組に関する投稿が増えれば、その番組の視聴率も上がるのではないかということです。投稿がテレビ視聴率に直接的に影響しているかどうかはトラッキングできないのですが、相関性はあると考えられ始めています。

 視聴行動分析サービスを提供するニールセン(米国)は12年、「SNSでテレビの番組が話題になると視聴率が上がる」と発表しています。それ以降、アメリカや日本のテレビ局はTwitterを積極的に利用するようになってきました。そして、同年12月17日、ニールセンと提携して、初めてのソーシャルメディアベースのテレビランキング「Nielsen Twitter TV Rating」を作成することを発表しました。これは、テレビ番組に関する投稿をリアルタイムで分析し、テレビ視聴者の動向や興味のあることを理解するために必要な指標を提供するもので、今秋からアメリカでサービスを開始する予定です。

--日本ではTwitterを利用したネット選挙が話題になっています。

牧野 選挙、政治に関する話題はTwitterでもたくさん投稿されています。例えば、現在1日のツイート数は4億くらいですが、12年の米国大統領選挙のときには、関連するツイートが、1日に3100万にも上ったことがありました。それで、政治家の方々にTwitterのアカウントを取得していただき、Twitter上で有権者とコミュニケーションしていただくというようなこともしています。最近では、Twitter上でオバマ大統領への質問を募集して、それに対して大統領が直接答えるという企画を行いました。

 日本ではこれまで選挙期間中はインターネットを利用した情報発信ができませんでしたが、改正公職選挙法が成立し、7月4日公示、21日投開票となる参院選からTwitterなどを使用した選挙運動が実現します。その一方で、“なりすまし”等による誹謗中傷のように、悪質な手口の防止が大きな課題になっています。この“なりすまし”対策として、本人確認ができたアカウントに対してTwitterのアカウントの横に水色のチェックマークをつけることを考えています。これは認証済みアカウントといい、本人であることをTwitterが保証しますというマークです。すでに芸能人や著名人などのアカウントに対しては行っており、今回の選挙では、候補者や政党のアカウントにも同様の“なりすまし”対策を講じたいと考えています。

--今後展開を予定している、新しいサービスや機能について教えてください。

牧野 例えば「Vine」。これは最長6秒の短いループビデオをつくり、共有できるモバイル向けアプリで、画面を指でタッチしている間のみ録画が実行されるという簡単さとTwitterとの連動の容易さが特徴です。そして、6秒以内に収まるのであれば、複数のシーンを継ぎ足すことも可能です。すでにサービスが始まっているアメリカでは、その手軽さやループする動画のおもしろさもあり、個人だけでなく、企業でも利用者が急増しています。

 それから、現在はアメリカだけのサービスですが、「ハッシュミュージック」という、Twitter上で聴かれている音楽でランキングをつくるという機能も追加しました。Twitterでは、今自分が聴いている曲を簡単に友達と共有することができます。Twitterのユーザー数を考えれば、Twitterで聴かれた音楽を集計し、ランキングをすれば、今どのような音楽がはやっているかがわかるのではないかという発想からつくられたものです。アメリカ以外の国でのサービスは、これからです。