ファストフード高級化のワケ マック、吉野家…値下げ脱却の思惑

20130714-00000500-biz_san-000-9-viewデフレ(持続的な物価の下落)を反映した“安売り”からの脱却を図る動きが、ハンバーガーや牛丼のチェーンで鮮明になってきた。日本マクドナルドホールディングスは7月に一食1000円の高級バーガーを限定発売。吉野家ホールディングスも7月から480円という高価格の丼を投入した。安さをウリにしてきたファストフードの常識を覆す方針転換。背景には、「アベノミクス」への期待感だけでない切実な思惑があるようだ。

6日、全国のマクドナルドの店舗で、30万個限定の高級バーガー「クオーターパウンダージュエリー」が発売された。厳選した食材を使い、「究極のぜいたくな味わい」をうたう。価格は同社最高の1000円だが、午前中から売り切れる店舗が続出した。

マクドナルドといえば、「100円マック」や「バリューセット」など、低価格路線のイメージが強かった。しかし、6月24日から全国で販売を始めた500円前後の高価格バーガーの売れ行きは好調で、6月の既存店売上高は前年同月を上回った。同月の客単価も3・8%増と2カ月連続で増加している。

外食業界関係者は、超高級バーガーの投入について、「数量限定にすることで、『客単価のさらなる改善を狙った』とのイメージを避けようとした」と分析する。原田泳幸会長兼社長は、クオーターパウンダージュエリーの発表会で「客単価アップの戦略ではない」とクギを刺したが、消費者心理に強烈なイメージを残したという点では、1000円バーガーは成功したようだ。

高価格商品の充実は牛丼業界でも同じだ。吉野家は新商品「牛カルビ丼」(並盛480円)を4日から全国で発売した。吉野家としては初めて、量を減らして価格を下げる「小盛」(380円)も本格展開した。同社は4月、「牛丼並盛」を380円から280円に100円値下げした。それ以降、来店客が前年比で2桁伸びているという。

しかし、高価格帯の投入には、「円安による材料費高騰分を価格に転嫁できなければ、利益を生み出せない」(関係者)という切羽詰まった事情もあった。吉野家の平成25年3〜5月期連結決算は、本業のもうけを示す営業損益が7億円の赤字(前年同期は3億円の黒字)に転落した。円安で米国産牛肉などの価格が上昇したことが、採算を悪化させた。

今年2月に米国産牛肉の輸入規制が緩和され、仕入れ価格が下がると想定されていたが、円安で価格は高止まりし、店頭での100円値下げと相まって採算が悪化したとみられる。「高価格帯」「少量」…。メニューの選択肢を広げることで客層を広げ、収支の改善を目指す。

日本経済は10年以上続くデフレにより、値下げ競争が“当たり前”となった。その最前線をひた走っていたのが、ファストフードだった。消費者の現金給与が伸び悩む中、一度値下げした商品を値上げすれば、「待っているのは客離れだけ」(関係者)という厳しい状態だ。

安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」の株高効果による個人消費の回復傾向は、外食産業にとっても千載一遇のチャンスだが、円安による原材料価格の高騰が足を引っ張る“副作用”も出ている。ファストフードの「コペルニクス的転回」ともいえるこれらの超高級品は果たして消費者に受け入れられるのか、しばらく目が離せない。