闘莉王はなぜザックジャパンに呼ばれないのか?

コンフェデレーションズカップで、3試合で9失点と守備陣が崩壊した日本代表。守備陣には厳しい指摘があり、特にセンターバックには“闘莉王待望論”も出ている。だが、これまで闘莉王はザックジャパンに招集されたことはない。それはなぜなのか? 『あなたのサッカー「観戦力」がグンと高まる本』(東邦出版)の中で、著者の清水英斗氏がその謎をわかりやすく解説している。

今野をザックが重用する意図

2013年3月に行われたアウェーのヨルダン戦、ザックジャパンは引き分け以上でブラジルW杯出場が決まる試合だったが、結果は1-2で敗れ、歓喜は次戦に持ち越しとなった(6月のオーストラリア戦で引き分け本大会出場は決まった)。

 前半アディショナルタイムにコーナーキックから喫した1失点目は、直前に行われた親善試合のカナダ戦で喫したパターンとほぼ同じ。このような状況から、空中戦に強い田中マルクス闘莉王の待望論も持ち上がるようになった。

 2010年南アフリカW杯、岡田ジャパンのセンターバックとしてベスト16進出を成し遂げた闘莉王だが、新たに立ち上がったザックジャパンには招集されていない。なぜ、闘莉王は呼ばれないのか?

 チームスタイルとセンターバックは密接に関わる。

「ラインを高く保てないのなら、お前を使う意味はないぞ」

 これはセンターバックのレギュラーとして活躍する今野が、ザッケローニ監督から伝えられた言葉だ。

 南アW杯の日本代表は岡田武史監督の決断により、ディフェンスラインを低く設定してブロックを作り、粘り強い守備からのカウンターを主体とする戦術に大きくシフト。それが功を奏してベスト16入りを果たした。しかし、ザッケローニはそのような戦い方ではなく、日本が主導権を握って攻撃的に仕掛けるチームで世界と渡り合うことを志向している。

 ディフェンスラインを高く保つということは、センターバックは攻撃時に相手の前線のプレッシャーに対して慌てないだけの細かいスキルがなければならない。また、攻撃から守備に切り替える瞬間には自陣にスペースが広がっているため、相手のカウンターを防ぐスピードや読みなど、センターバックには出足の鋭さも必要になる。

 これらを満たすために今野はザッケローニに起用されたのであり、「ラインを高く保てないのなら、お前を使う意味はない」。まさにその言葉のとおりだ。

闘莉王の招集は何を意味するのか?

そしてこの言葉は「なぜ、闘莉王が呼ばれないのか?」という質問に対する答えにもなる。闘莉王のパーソナリティーをひも解くと、

・空中戦やセットプレーに強い
・ロングパスやサイドチェンジの精度が高い
・(今野に比べると)ショートパスの出し手、受け手としての能力が低い
・スピードや俊敏性がなく、カウンター時には置き去りにされやすい

 このような特徴は明らかにディフェンスラインが低いチームに適したものであり、攻守に高いディフェンスラインを保つことが要求されるザックジャパンでは今野のほうがベターだ。

 ちなみに吉田もあまりスピードのある選手ではないが、名古屋グランパスU−18ではボランチを務めた経験があり、もともとは中盤の選手だった。

 ヨルダン戦の後半15分に喫した2失点目のように、カウンターを食らって走り合いになる守備の局面にはそれほど強くないが、攻撃の組み立てには元ボランチとしての持ち味を発揮する。189センチの長身や若さを考えると、吉田を起用し、今野と組み合わせるのが今後のためにもベストと判断されたのだろう。

「新たな日本代表ではディフェンスラインを高く保って戦う」。それがすべての出発点だ。

 裏を返せば、今後、闘莉王がザックジャパンに呼ばれることがあれば、それは戦術に対する修正を示唆する。つまり、南アフリカで岡田監督が下した決断のように、世界の強豪と戦う中ではディフェンスラインを高く保つことが困難となり、闘莉王を入れてゴール前の空中戦の強さを上げる方向に舵を切る可能性が出てくるということだ。

 このような見方をすると、ザッケローニのメンバー選考にも1つの柱が浮かび上がり、すっきりと試合を観られるのではないだろうか。