負けた公安、無罪判決…勢いづくオウム、勧誘に“お墨付き”

オウム真理教の後継団体「アレフ」に侵食された有名私立大学が、近畿にある。

 接点のあった学生は、把握できただけで卒業生や中退者を含む約30人。学生たちは、いまなお勧誘の脅威にさらされているという。

 関係者によれば、発端は、平成21年に体育会系クラブで起きたささいな出来事だった。

 全日本で優勝経験のあったOBが学内での練習に参加中、瞑想(めいそう)している姿が複数の部員の目にとまった。OBは「精神統一ができて競技力の向上につながる」とアピール。OBに憧れる部員たちは、瞑想を教えるという場所に連れて行かれた。そこが、アレフの道場だったのだ。

 部員たちは入会のしるしに「石」を受け取っており、主将の説得で全員、返しに行ったことになっていたが、大学当局が事情を聴いたところ、2人が「紛失したので、石は返していない」と答えた。

 やがて、その2人が勧誘活動を始めた。脱会していなかったのだ。クラブをやめ、授業にも来なくなって結局、退学したが、今度は新たに入信した学生たちが、勧誘の中心メンバーになったという。

 発覚から約2年間、大学当局がこうした事態を把握できないまま、水面下で信者獲得が進んでしまった。

■遅れる対策

 「誘われて困った」「口止めされたけど、怖くて…」。そんな相談が学生から大学当局に寄せられたのは、23年秋になってからのことだ。

 アレフは「オールジャンルサークル」、つまりコンパやバーベキューなど何でも楽しめるとうたったダミーサークルを作り、対人関係のセミナーや占いに誘い込んで信者に引き合わせていたという。ヨガなどのダミーサークルを勧誘に使ったかつてのオウム真理教の手法と重なる。

 大学側は非公認サークルによる学内勧誘を一切禁止し、ガイドラインを作って学生本人を呼び出すとともに保護者に連絡する体制を整えた。放置すれば教育環境を脅かしかねないという恐れがあったからだ。

 だが、すでに勧誘の舞台は、若者を中心に普及している会員制交流サイト(SNS)などのインターネット空間にも移り、対面する際も信者の下宿先や飲食店など学外の場所が使われている−。関係者はアレフへの対応の難しさを指摘し、近隣の大学に注意を促してもほとんど反応がないとして、こう警鐘を鳴らした。

 「オールジャンルサークルに複数の大学の学生がいることは、容易に想像できる。他大学は気づかないだけで、対策が遅れている」

■手痛い「敗北」

 公安当局もアレフ側に手痛い「敗北」を喫した。

 今年3月、大津地裁は詐欺罪に問われたアレフの女性在家信者2人に、いずれも無罪(求刑懲役1年)を言い渡した。2人は、ヨガ教室と偽って滋賀県内の男性会社員をアレフに勧誘し、入会金など計2万円をだまし取ったとして逮捕・起訴されていた。

 実は、これが教団の正体隠し勧誘に詐欺罪が適用された全国初の事件だった。

 公安当局は、アレフがオウム真理教教祖、麻原彰晃(58)=本名・松本智津夫=への帰依や殺人を暗示する危険な教義を秘匿しながら信者を増やしたとみて、詐欺罪に問えば勢力拡大に歯止めがかかると期待していたという。

 しかし、判決は男性会社員の供述に変遷があるとして信用性を認めず、「何らかの宗教団体への入会であることは十分認識できた」と指摘、無罪とした。閉廷後、2人は他の信者らに祝福され笑顔をみせる一方、記者の質問には堅く口を閉ざし、足早に裁判所を去った。検察側は控訴せず、判決は確定した。

 公安調査庁によると、2人は京都道場(京都市南区)で、勧誘の「エース」だった。無罪確定後、アレフでは2人を評価し、公安当局と対峙(たいじ)した体験談を信者たちの前で語らせることもあるという。司法の“お墨付き”は、アレフが勧誘活動の正当性を訴える有力な材料になったのだ。

 ある公安関係者は唇をかんだ。

 「これで教団を勢いづかせてしまう」