多様化する「街コン」…いびつな男女比、粗悪料理の悪質業者も

20130706-00000516-san-000-4-view街ぐるみの大規模な合同コンパ(合コン)「街コン」の多様化が進んでいる。従来は地元の有志主催で地域の店舗を男女が食べ歩くというスタイルだったが、図書館を借り切った「図書コン」や、「メガコン」と呼ばれる数百人規模の街コンなど特色のある企画が好評を博しているようだ。新たなビジネスモデルとして注目を集める一方、出会いの場を“食い物”にする業者も現れ、参加者からクレームが寄せられることもあるという。

立ち入り禁止の地下書庫で…

「普段見られない場所に来られてラッキーですね」「何かドキドキします」

 4月上旬、大阪市西区の市立中央図書館の地下書庫。通常は来館者が入ることができないスペースで親しげに会話を交わす男女のグループがあった。

 閉館後の午後6時に図書館を貸し切りにして開かれた図書コン。この日はあいにくの大雨だったが、普段は入ることのできない書庫で、数十年前の書籍や希少な歴史書を見ることができるという珍しさもあり、約100人の男女が参加した。

 参加者は複数のグループに分かれて地下書庫を見学し、閲覧席でフリートーク。お気に入りの異性と席を並べ、好きな本や見学したばかりの地下書庫の話題に花を咲かせていた。

 新たな辞書の編纂(へんさん)に取り組む編集者を描いた映画「舟を編む」の公開に合わせ、街コン情報サイトを運営する「リンクバル」(東京)が主催。楽しげに会話を弾ませる参加者を前に、担当者は「趣味の合う人同士を引き合わせることで、通常の街コンよりもより楽しい場を提供できる。大成功です」と笑顔を見せていた。

「エヴァコン」に相撲、婚活列車も

街コンは平成16年、栃木県宇都宮市で開かれた「宮コン」が発祥とされている。地元活性化と男女の出会いの場という一挙両得のイベントとして広がり、昨年にはユーキャン新語・流行語大賞の候補に選ばれるなど急速に身近なものになった。

 参加者が急増し、「街コン文化」が市民権を得るとともに特色のある街コンが次々と開催されるようになった。

 5月には大阪・梅田で人気アニメ「エヴァンゲリオン」のファンを対象にした街コンが開催された。人気キャラクターの衣装を着るコスプレをした男女らが参加し、アニメ話で大盛り上がり。また、男女で料理教室を楽しむ「料理コン」のほか、数百人が参加する「メガ街コン」などユニークな街コンが人気を集めている。

 勢いに乗る街コンを開催して集客につなげようと、さまざまな業界も企画に力を入れている。

 5月19日には、大相撲夏場所8日目を迎えた東京・両国国技館周辺で街コンを開催。着物姿の男女計100人が参加し、うち24人以上が夏場所も観戦した。

 食事をしながらの交流は国技館近隣の飲食店で行われたが、事前に参加者は新弟子力士の通う相撲教習所で着物に着替え、土俵を背に記念撮影。“保守的”というイメージのある日本相撲協会だが、街コンと本場所のチケット購入を連動させたり、開催時期を観戦券の買いやすい日に変更したりと、ファン拡大に“待ったなし”で取り組む。協会担当者は「今後も継続して開き、本場所の盛り上げにつなげたい」と次の構想も練っている。

 一方、街コンをヒントに“婚活列車”を走らせる「The鉄コン!」を企画するのは近畿日本ツーリストだ。特急車両を貸し切った専用列車を用意し、東京を出発して関東の名所を日帰りで往復する。

 参加条件は20代から40代までの独身者が同性2人で申し込むこと。往路の車内では、4人掛けのボックス席で自己アピールをするが、どんなに会話が盛り上がっても時間制限で席替えし、多くの異性に出会うルールだ。

 帰りの列車では“敗者”復活の「マッチング車両」も設け、東京に戻るぎりぎりまでカップル成立を後押し。毎回チケットが完売する人気ぶりで、結婚というゴールに向かって“快走”しようと多くの男女が乗り込んでいる。

経済効果は1430億円

各業界が積極的に開催し、現在は年間で約2千回の街コンが開催されているという。その経済効果はなんと年間約1430億円。関西大大学院の宮本勝浩教授(理論経済学)が独自に試算したもので、参加費だけで29億4千万円。参加者が使うバスなどの交通費が9億円、衣装、美容費に30億円かかるとした。

 これに加え、街コンをきっかけに交際を始めたカップルなどのデート費用、結婚にこぎつけた場合の挙式費用や、街コンの舞台となった飲食店の売上増加額などを試算すると巨額に膨れあがるという。宮本教授は「街コンは地域の活性化に貢献するだけなく、結婚やその後の育児も含め、日本の将来にもプラスになる素晴らしいアイデア」と指摘する。

“利益至上主義”の業者も

しかし、街コンが乱立するにつれて悪質な街コン業者も現れたという。

 「男女比が偏りすぎていてまったく女性と話せなかった」

 「飲食店の料理が粗悪だったり司会進行がいいかげんだった」

 宮コンや「ひろコン!」(広島市)など営利目的ではない街コンを開催する13団体でつくる「日本街コン協会」によると、別の団体が主催した街コン参加者からこういった報告が聞かれることがあるという。

 また、関東で企画されたある街コンでは、主催者が一方的に開催を中止したのに参加費を返還せず、数十人の参加者は泣き寝入りに。このほか、参加店舗を少なくして費用を安くあげる業者もあるという。同協会は「悪質な業者は利益のみを追求し、地域活性化と男女の出会いの提供というテーマを忘れてしまっている」と警告する。

街コン4箇条の確認を

こうした現状を受け、同協会を立ち上げた佐々木均氏が、街コン参加希望者に対して、主催者▽参加店舗▽地元活性化と恋愛支援の両方が目的か▽内容は街に愛着を持ったものか−の4つを事前に確認する「街コン4箇条」を制定。同協会は「悪質な業者がいるのは残念なことだが、事前に参加希望の街コンの情報を確認すればある程度はクオリティを判断することができる」と呼びかけている。

 大阪市立中央図書館での図書コンに参加した大阪市中央区の男性会社員(28)は「毎日のように図書館を利用していて告知ポスターを見て気になっていた。実際に参加してみて趣味の合う女性と知り合えたし、参加してよかった」と笑顔。同図書館の担当者も「このイベントを機に、これまで以上に図書館に来てくれるようになれば」と期待を込めていた。

 同協会は、図書コンのように参加者と街コン会場の飲食店や施設の双方が発展することが大事とし、「悪質な業者によって街コン全体のイメージが悪くなることもある。参加希望者はしっかりとイベントの本質を見極め、街コンを楽しんでほしい」と呼びかけている。