「ガソリンスタンド過疎地」拡大 商習慣の見直し求める動きも

20130630-00000000-biz_fsi-000-2-view全国で「ガソリンスタンド(給油所)過疎地」が広がり始めている。低燃費車の普及に伴うガソリン需要の減少や、安値競争による利ざやの縮小で給油所の淘汰(とうた)が進んでいるため。地域住民や自治体、石油元売りなどが協力して給油所を維持する動きはあるが、抜本的な解決策につながらない。政府内では給油所が系列外の安価なガソリンを仕入れられるよう商習慣の見直しを求める動きも出始めた。

「給油所が撤退すれば冬の灯油の配達がなくなり、住民の命にも関わる」。福島県檜枝岐(ひのえまた)村の星明彦総務課長は強調する。現在、村にある給油所は1店のみ。そこですら、村が販売量1リットル当たり10円の補助を付けて営業を継続している状態だ。檜枝岐村は高齢化が進む全国有数の豪雪地帯。この店が撤退すれば一番近い給油所は30キロメートル以上先になる。住民にとって存廃は文字通り死活問題だ。

経済産業省の調査では、給油所が3カ所以下しかない「給油所過疎地」に陥った市町村は全国に257カ所(3月末時点)あり、2年前の調査と比べて19カ所増加した。地方だけにとどまらず、東京都内でも島嶼(とうしょ)部の一部や奥多摩町などは既に過疎地入りしている。東京都石油商業組合の高嶋孝典専務理事は「都内でもこれ以上減れば生活に不便を感じるギリギリの水準」と説明する。

経産省は地元住民による給油所の運営を支援するなど過疎対策を強化。檜枝岐村と同様、給油所が1店しかない長野県天龍村で商工会と連携して高齢者宅への灯油や日用品の共同配送を実施するなど、2011、12年度で8件の実証実験を行った。だが、全国の給油所は毎年千数百店のペースで減り続け、6万店以上あったピーク時の1994年度から現在は約4割落ち込んだ。国の対策も「焼け石に水」(給油所関係者)の状態だ。

給油所の経営環境が悪化したのは、少子化や低燃費車の普及に伴うガソリン需要の減少を受け、各地で激しい値下げ競争が起きていることが最大の原因。消防法改正で義務づけられた老朽地下タンクの改修で多額の出資を強いられたこともあり、廃業に拍車がかかっている。

元売りが系列の給油所で売る正規ルートに比べ、商社などを通じて余剰品を独立系給油所で販売する「業転玉(ぎょうてんぎょく)(業者間転売品)」は、卸価格にブランド使用料などが上乗せされないため1リットル当たり4円程度安い。人件費が浮く分安く販売できるセルフ式給油所も普及している。

ガソリンはブランドごとの品質の差があまりなく、消費者の関心は価格にほぼ集中する。既存の系列店は競争に勝ち抜くために利益を削って小売価格を引き下げざるをえない。都内の給油所経営者は「事業を続けるには1リットル当たり10円程度の利ざや(小売価格と卸価格の差)が必要だが、安値競争の激しい地域では2円程度まで低下している」と漏らす。

業転玉が系列店の収益を圧迫するのは、系列の元売りで仕入れたガソリンしか販売できない商習慣があるためだ。公正取引委員会は系列店が独立系と比べ不利な競争環境に置かれているのを「適切とはいえない」(幹部)とみており、7月に公表するガソリン販売の実態調査で系列店も業転玉を販売できるよう是正を要求する見通しだ。

これに対し、元売り大手幹部は「自社の製品は、品質を保証している。うちのブランドを掲げたまま、勝手に他社の製品を販売されては困る」と反発する。二重価格が生まれたのは、元売りの生産能力が低迷する需要を上回り、供給過多に陥ったのが原因。各社は製油所の閉鎖などで生産能力の削減を図っているが、系列店が業転玉を仕入れ始めれば、さらなる生産削減を求められることになる。

一方、商習慣が見直されれば系列店と独立系の価格差は縮まり、系列店の経営は改善される可能性が高い。ただ、ガソリン需要の減少という構造的な問題は今後も続くため、値下げ競争は終わらず、「公取委の指導があっても経営改善は一時的に留まるのではないか」(アナリスト)と見る向きが強い。都内の給油所経営者は「今後は車検や洗車、レンタカーなど関連業種に手を広げられるだけの資本力がある給油所しか生き残れないだろう」と指摘する。