3Dプリンター リアルな再現力、試作容易 将来性は?

20130629-00000029-mai-000-3-viewコンピューターのデータを基に、印刷感覚で立体物を造形できる「3D(スリーディー)プリンター」に注目が集まっている。リアルな再現力に加え、試作などが容易になり開発期間やコストの削減につながると産業界の需要も高い。その実力と将来性は?

3Dプリンターはプラスチックや樹脂、金属粉などの層を積み重ねながら造形する技術。3D(三次元)スキャナーで取り込んだりCAD(コンピューター利用設計システム)で作成したりしたデータがあれば、複雑な形状でも数時間から数日で完成させられる。高性能品は着色も自在。産業用の1億円を超えるものから十数万円の普及品まであり、米国メーカーが強い。

 「3Dプリンターは自動車産業などでは部品の試作に欠かせない機器」。丸紅情報システムズの常務執行役員、木全英二さん(61)は語る。1990年代初めから最大手・米ストラタシス社の製品を企業向けに輸入販売してきた。約10年前に1000万円を切る製品が登場すると需要が拡大。飲料メーカーが持ちやすい容器を開発したり、おもちゃ会社が新製品のデザインを確かめるのに用いたりと使途は多様化している。実物に近い試作品が簡単に作れることで、設計上の不備や改善点がいち早く分かるメリットがある。

 「大企業に対抗するため、スピードが命のベンチャー企業にはなくてはならない技術」と期待するのは、ネットを使った映像配信装置などのヒット商品がある家電ベンチャー、セレボの岩佐琢磨社長(34)。新製品の設計データを3Dプリンターを持つ制作会社に外注して試作している。タカラトミーは2009年、ミニカー「トミカ」の新モデルのサンプル製作などに導入。木や樹脂から手作業で削り出していた時代に比べ「時間もコストもざっと半分になった」(広報)。さらには試作にとどまらず、航空機の本物の部品の製作にも使われ始めている。

 一部の大学病院では患者の臓器を内部の血管や神経まで再現した模型を、手術方法の検討や患者への説明に用いたりしている。

 エンターテインメント系の活用法も広がる。「今の自分たちをそのまま切り取れる。結婚の記念です」。静岡県掛川市の会社員、森和樹さん(30)と河原崎実圭さん(25)は今月8日、東京都内のスタジオで3Dスキャナーを使い全身のデータを撮影した。2カ月後には3Dプリンターで製作した自分たちそっくりなフィギュアが届く。ソニー・ミュージックコミュニケーションズが不定期に実施するサービス。高さ20センチの人形1体で6万9000円と安くはないが、体形から髪の質感、衣服のしわまでリアルそのもの。同社で新規事業を担当する詫間洋介さん(29)は「好きな歌手やアニメのキャラクターと並べるなど、いろんな楽しみ方が可能になる」と語る。

 政府が7日にまとめた13年度版「ものづくり白書」は、3Dプリンターの普及について「ものづくりの方法が大きく変わる可能性がある」とする一方、熟練工の高度な加工技術が不要になりかねないと指摘。例えば大量生産に欠かせない金型製作は日本が強い分野だが、「3Dプリンターの性能が高まれば脅威になる」(中小企業関係者)。ただ今のところ3Dプリンター自体で大量生産するところまではいっておらず、白書は「わが国の製造業にとって脅威なのか、競争力を向上させるチャンスなのか、注目する必要がある」としている。

 先月には米テキサス州の学生らの団体が、実弾を発射できるプラスチック製銃の設計データをインターネット上に公開。実際に製作し発砲シーンの動画まで公開して物議を醸した。米政府が公開中止を命じて今は見られないが、3Dプリンターの性能の高さが「もろ刃の剣」であることを浮き彫りにし、法規制が必要との指摘も出ている。

 とはいえ新技術の普及は止まりそうにない。米調査会社ウォーラーズ・アソシエイツによると、12年の3Dプリンター市場規模を前年比28・6%増の22億400万ドル(約2150億円)、21年には約5倍の108億ドルに膨らむと予測している。