今田耕司さんに聞く老若男女の心をつかむトークの心得

数多くのテレビ番組で絶妙な言葉のキャッチボールを繰り広げる今田耕司さんは、場の雰囲気や会話を人一倍楽しんでいるという。老若男女から愛される、今田流トークの心得を聞いた。

場数を踏めば怖くない

今田さんは、芸人さんはもちろん、お客さんや素人さんとの会話のキャッチボールも上手いと評判です。誰とでも会話を弾ませられる秘訣は何でしょう?

「ありがとうございます。でも、難しいなあ。しゃべりに『コレが正解!』というのはないですからね。僕は考えてしゃべっていないので、何かアドバイスできるとしたら、『空気を読んだほうがええ』ってことでしょうか」

その「空気を読む」ことが、不得意な人がいます。今田さんの空気の読み方とは?

「こればっかりは経験です。場数やと思います。僕は、テクニックも何にもない若い時にラジオやら生番組やらでしゃべらされて、失敗する機会が多かったですから。失敗を繰り返して『ああ、こういう時はだいたいアカンな』と悟る感覚が養われたような気がします。『この流れではちょっとマズイ方向に行きそうやな』というのは、相手の表情や周りの雰囲気でわかるもんですよ。そうなったら、話を引っ込めたり、話題を変えるタイミングですね。だいたい、周りが見えていれば引き際がわかるから、そんなに大ケガしないもんですけどね」

うっかり発言で自分の足を引っ張ってしまうことを恐れるあまり、何も言えないサラリーマンが、今、急増しているんです。

「そんなら、場数を踏む場所を見つけたらどうですか? 今あんまりしゃべり慣れてない人が、突然失敗せずにうまくしゃべれるようになるなんて、まず不可能やと思うんで。スナックでもガールズバーでもキャバクラでもなんでもええんですけど、行きつけの店があるでしょう。とにかく失敗できる場所を探したほうがいいですね。できれば『つまんねえなぁ』って言ってくれる人のいる店がいいですね。お世辞抜きの、リアルな反応がわかりますからね」

失敗談は絶好のネタ

場数を踏めば、そのうち誰とでも会話が弾むようになる?

「どんな人が相手でも、話題は何かありますからね、絶対。むしろ失敗ネタはハズレがないんです。アカンかったなぁという場合は、後で『あれはアカンかった』という話ができますし、2回失敗したら、『2回連続でアカンかった』という話ができますし。3回失敗したら『3回も失敗したで』って話ができます。『何やってもうまくいかへん』って話もありますしね。話すことが何にもないっていうことは、絶対にないんですよ。会社員の方も、失敗したら『失敗したことを話せておいしい』って思うくらいのほうが気持ちがラクになるでしょう。僕ら芸人の世界では、いつでも笑っていてタフな人は、ネタがウケなくても愛されてますけどね」

話がおもしろくなくても、愛される道があると?

「後輩でね……いろんなね(←腹を抱えて笑っている)……ハロー植田とかいるんですけどね。自分で何か言ったことに大笑いしてるんですよ。『なんやねん、全然おもろないやん』って言われながら、みんなに愛されてますね。会話もなくて、笑顔もなくて『あの人、よっぽどつらいんかなぁ』って遠巻きに心配されるより、いつも笑ってて愛されるほうがいいと思いませんか?」

ところで今田さんは、人が傷つくようなことで笑いを取らないですよね?

「そうですか? 自分では意識してませんけどね。言ってウケそうな空気の時はとかバンバン言いますよ。言ってもウケへんやろなぁという時は言いませんけど……。でも確かにそんなんあんまり言いたいタイプではないですね。あとあと、あんまり気持ちよくないような気がしますしね」

若手の芸人さんや素人さんのネタを見て笑い転げたり、スッと救いの手を差し伸べたりする場面を、何度も見てきました。

「『こいつ、もうネタないやろな』っていう時は感じますから、早めに話に入ったりしますよ。ただ少なくとも、本人はおもしろいと思ってしゃべってるんです。ということは、どっかおもしろいんでしょう。100人おったら、100通りおもしろいツボありますから。それを共感できたほうがうれしいし、楽しいじゃないですか。『それ、おもろない』って言ってしまったらおしまいだけど、僕は『俺もそれ、わかった!』って感じたいですからね。そのほうが自分の幅も広がるような気がしますしね」

3大カリスマ芸人の返しテク

「返し」のテクニックで、今田さんがうまいなぁ、と思う方はいらっしゃいますか?

「芸人でも、それぞれ返し方が違うんですよ。例えば(明石家)さんまさんは、強く「違う! こうやー!!」って返しはる。自分が世の中のルールになっちゃうタイプなんで(笑)。女性も子供も偉い人も関係なく『間違ってる。おかしいやんか!』って言いはりますからね。でも逆に『いやいや、さんまさん、それ間違えてまっせ』って言いやすい。こっちが返すと『そっかぁ?』って言って頭抱えて笑ってたりされる。ホンマにリアクション達人やなあと思いますね。(ビート)たけしさんは、たいてい返しでボケはります。そうなると『それ、おかしいですよ』って言いたくなるじゃないですか。その究極が、(笑福亭)鶴瓶さんですかね。あんな大師匠やのに、つっこむ隙をみんなに与えてくれるんで、どんな下の子からもいじられてますね。タイプはそれぞれ違うけど、さんまさんもたけしさんも鶴瓶さんも、やっぱり器の大きさを感じますね。返しもうまいし、つっこんでもおもしろい。だから3人ともカリスマなんでしょうね」

会話やコミュニケーションは、相手がいて初めて成り立つものですから、お手本となる人が身近にいるといいですね?

「そういうすてきな上司や先輩を見つけて近づいていくというのも、手やと思いますよ。すてきな人の評判というのは、自然に耳に入ってくるじゃないですか。そういう人がどんな話し方をしているのか、直接話せなくても、見ればいいんですよ。どんな人が周りに集まってんのやろうとか、どんどん目で追って、立ち居振る舞いを見ていれば、すごく参考になると思いますね」

では、話をしやすい人、会話が弾む人というのは、どういうタイプだと思いますか?

「さんまさんとかたけしさんとか、(西川)のりおさんとか、大先輩はだいたいみんなよく話をしてくれますね。クルマの話とかスポーツの話とかたわいもないことなんですけど、先輩が話しかけてくれれば、ああ、こっちも話をしていいんやと思うじゃないですか。寡黙な先輩より話しやすいですよね。後輩も同じですよ。話かけてくれる後輩には自然とこっちも話しかけますよね。今の20代30代の話って、聞かないとわからないことが多いんですよ。『昨日こうや
ってみんなで遊んでたんッス』とか言われると、『へぇ〜っ!』ってことありますよ。上の人には、『今若いやつら、こんなんですよ』って言うだけで、不思議がって聞いてくれます。僕ら世代は中間にいるのを武器にしたほうがええね。上の話も下の子の話も聞けるわけですからね」

女性と話す時は全力を尽くそう

女性とうまく話すコツは?

「自分のタイプやったら、どんどん話しかけますよ。でも、タイプやなかったら、全く興味がわかないから、言葉が何ひとつ出てこなくなるんです。後輩に言われたんですけど、僕、合コンとか行って、タイプの子じゃないと、『ああ、そうですか』って敬語で話してるんですって」

たとえ敬語でも、話すことは話すんですね?

「そこは絶対、はい。ものすごくハズレな子が来て『こいつキツイなぁ』と思っても、極力笑顔で全力で答えるようにしています。そしたら、それをかわいい子が見ててくれたりするんですよ。あとで『私の友達が、今田さんてものすごくええ人やったぁ、って言うてました』って言われたら、『報われた〜』と思うじゃないですか。逆にも注意ですよ。昔は正面の子がハズレやったらムス〜っとしたり、小芝居して10分で帰ったりしたんです。そしたら悪い評判も耳に入るんですよ。いや、ホンマでっせ。絶対自分に返ってくるんです。だからどんな合コンでも、誠心誠意、全力を尽くして話したほうがええですよ」

■今田耕司さん
1966年、大阪府生まれ。お笑い芸人。『ケータイ大喜利』(NHK)、『アナザースカイ』(日本テレビ系)、『ジェネレーション天国』(フジテレビ系)ほか、計10本のレギュラー番組を持つ司会者として活躍中。