安愚楽牧場、破綻していたビジネスモデル 畜産事業9年連続赤字

20130620-00000120-san-000-5-view■早くから自転車操業疑い

 経営破綻した安愚楽(あぐら)牧場(栃木)の旧経営陣らによる特定商品預託法違反事件で、同社の畜産事業が破綻前の9年連続で赤字だったことが19日、関係者への取材で分かった。同社は子牛の売却益から出資者への配当を生み出す「和牛商法」で事業を拡大したが、「本業」は年々低迷し、早い段階で出資金を配当に回すだけの「自転車操業」に陥っていた疑いが強い。「矛盾を抱えたビジネスモデル」(同社関係者)を立て直せず、最後まで出資金集めに奔走した結果、残ったのは4300億円にも膨らんだ負債だった。

「安愚楽の畜産事業はずっと赤字。結局、新規オーナーの獲得によって(経営が)成り立っていた」

 昨年5月に開かれた債権者集会。破産管財人は集まった出資者に対し、安愚楽牧場の和牛商法を、こう断定した。和牛商法は、出資者に繁殖牛のオーナーになってもらい、毎年出産する子牛を育てて売却。飼育費などを差し引いた利益を配当するという仕組みだった。

 ところが、平成23年8月に経営破綻した後、管財人が過去20年間の現金収支を調べたところ、出資金約3700億円のうち、半額以上の約2千億円がそのまま配当に回されていたことが分かった。

 一方で、畜産事業は低迷し、14年以降は9年連続赤字。配当の原資となる子牛の売上高も上向かず、18年度の236億円から、22年度には159億円にまで落ち込んでいた。

 畜産事業が不振から抜け出せなかった背景には、創業当初からの計画のずさんさがある。全国安愚楽牧場被害対策弁護団の紀藤正樹弁護士は「安愚楽の手法は牛が高く売れ続け、牛に与える飼料代が安く抑えられれば理論上は存続可能だが、実際にはその両方が破綻していた」と指摘する。

 過去10年間の和牛1頭当たりの販売価格は、14年の47万円から19年には88万円まで上昇したが、以後は下落し、破綻した23年には59万円まで落ち込んだ。一方で、繁殖牛や子牛を育てる飼料代は、14年の60億円から23年には146億円と2倍以上に膨らんでいた。

 飼育する牛の増加や飼料代の高騰が原因とみられ、子牛の成育が悪くなり想定を下回る販売価格しかつかなくなるという悪循環に陥っていた。

 また、母牛が子牛を年1回出産する前提で出資を募っていたが、実際には子牛が生まれず、飼育途中で死ぬこともあった。「車の両輪」であるはずのオーナー事業と畜産事業のバランスは完全に崩れていたが、オーナー離れを恐れ、配当を払い続けた。

 捜査関係者によると、元社長の三ケ尻久美子容疑者(69)らは早い段階で経営の行き詰まりを認識していたとみられるが、破綻直前には新規出資者の勧誘活動に一層傾倒していく。

 23年3月の東京電力福島第1原発事故後には、配当の他に海外旅行や電化製品のプレゼントをちらつかせて勧誘。極めつきだったのが、破綻する数週間前の同年7月に行った1千頭限定の「肥育牛コース」の募集だった。

 これまでの繁殖牛への投資とは異なり、食肉用の牛への投資で年8%の高配当が得られるとうたった。破綻までに3億円超を集めていたとされるが、これは過去に別の事業者が失敗を繰り返した従来型の和牛商法と同じだった。

 警視庁は19日、三ケ尻容疑者ら3人を送検。こうした強引な勧誘を指示していた可能性があるとみて、詐欺容疑での立件を視野に捜査している。