裁判員裁判の死刑判決を破棄 飲食店主殺害で東京高裁

東京都港区のマンションで飲食店経営の男性を殺害したとして、強盗殺人罪などに問われた無職伊能(いのう)和夫被告(62)に対し、東京高裁は20日、一審・東京地裁の裁判員裁判の死刑判決を破棄し、無期懲役とする控訴審判決を言い渡した。村瀬均裁判長は「一審判決は、2人を殺害した前科を重視しすぎている」と指摘した。裁判員裁判による死刑判決は19件あるが、二審で覆るのは初めて。

 無罪を主張していた弁護側は、上告する方針。

 判決によると、伊能被告は2009年11月、東京・南青山のマンションに金目当てで侵入。昼寝中だった五十嵐信次(のぶじ)さん(当時74)の首を包丁で刺して殺害した。

 11年3月の一審判決は、伊能被告が過去に妻と娘を殺害し、懲役20年に服した前科があることを重視。今回起訴された事件での犠牲者は1人だったが、前科を踏まえて死刑としていた。

 一方、控訴審判決は、殺害された被害者が1人だった強盗殺人事件の裁判の先例のなかで、前科が重視されて死刑が選択されたケースと比較した結果、多くは無期懲役の仮出所中に、前科と似た罪を犯していたケースだったと指摘。伊能被告の場合、今回は金目当ての犯行だったが、前科は無理心中であり、類似性が認められないと判断した。

 村瀬裁判長は一審判決について「人の生命を奪った前科があることを過度に重視しすぎた結果、死刑の選択もやむを得ないとした判断は、誤りといわざるを得ない」と述べた。

 弁護側は「被告は被害者宅に侵入していないし、殺害もしていない」と無罪を主張。伊能被告は取り調べから一審判決まで黙秘を貫き、控訴審は一度も出廷しなかった。