宮城の珍味ホヤ 、復興は「韓国頼み」の現実

20130619-00010001-wordleaf-000-1-view「海のパイナップル」と呼ばれ、東北で人気の珍味ホヤは、宮城県が全国9割の大生産地だが、東日本大震災の津波で養殖施設が全滅した。韓国向け輸出が震災前まで急増し、復興も「韓国頼み」なのが現実だ。危機感を抱き、国内市場拡大を目指す動きも出てきた。

グロテスクだが味わい深い

ホヤは見た目はグロテスクな、魚でも貝でもない「動物」。身が鮮やかな山吹色で、形が似ているため「海のパイナップル」と呼ばれる。酒や水を飲みながら食べると、甘みが広がる味わいがある。

 5月下旬、宮城県石巻市の鮫浦湾を訪ねた。この湾はホヤ生育の環境に適し、養殖の種苗生産地として県内外にホヤ種を供給してきた。しかし、津波で養殖施設は全滅した。
20130619-00010001-wordleaf-001-1-view鮫浦湾の前網浜では、養殖いかだが再建され、海面に長さ約100メートルのロープが張られた。約50センチ間隔で、深さ15メートルまでロープが垂れ下がり、1つのロープから約1000個のホヤがとれる見通し。来年、実が成長する3年目となり、「フジの花が咲く頃」といわれる夏に出荷される。

 水揚げ金額は、ほかの魚貝類と比べて大きくない。しかし漁師は「養殖資材が安く、堅実に収入を得られるのが魅力」と話す。

韓国への輸出が急増

韓国では釜山を中心に、コチュジャン(唐辛子みそ)と食べるホヤの刺し身が大人気。養殖期間が短い韓国産に比べ、日本産は大きくて味も良いため、韓国バイヤーが近年こぞって買い付けにきた。財務省統計によると、韓国への輸出は05年の280トンが10年は728トンと、2.6倍に増えた。輸出はほぼ韓国向けだ。

 前網浜の漁師は「韓国に向かう12トントラックがずらっと、この小さな浜で出荷を待つ。漁師はみな、韓国人業者と取引している」という。加工の手間が少ないことも魅力だ。国内向けでは数や大きさをそろえる作業が必要だが、韓国へはそのままごっそり持っていくという。一方で、漁師の鈴木健之さん(46)は「身が入っていない冬でも買って行くので、旬がなくなった」と話す。

地元でさえ敬遠する人も

ホヤは東北出身者を中心に愛好家は多いが、国内全体では知名度が劣る。また、加工や流通の状態が悪いと独特の臭いが出るため、地元でも敬遠する人は多い。

 ホヤ加工生産業、三陸オーシャン(仙台市)の木村達男社長(61)は、仙台市内でも「嫌いな人が多いのでうちでは扱わない」という飲食店が多く、驚いた。「鮮度の高いホヤをよい食材にあわせれば愛好者は増えるはず。誰もやってこなかった」と感じる。「ほや三升漬」など食べやすい新商品を開発したり、ホヤ普及イベントを検討している。
20130619-00010001-wordleaf-002-1-view東北新幹線の車内販売でおなじみの、漬け込んで乾燥させた加工品「ほや酔明」を作っている水月堂物産の阿部壮達さんは、「ホヤの話題を震災で絶やしてはいけない」と思い、赤字覚悟で北海道から希少で高価なホヤを調達し、商品を作り続ける。

 宮城県南三陸町では、天然ホヤが水揚げされた。宮城県漁協支所が今年開業した直売所では、連日完売が続く人気ぶりで、直売所での販売に期待を込める。漁師の村岡賢一さん(63)は「いいホヤを育て、消費者に直接届ける仕組みを整えたい。漁師の意識も変わっていければ」と意気込む。