都営バス24時間化 民業、治安…影響どう出る?

20130617-00000099-san-000-9-view日付が変わる前の東京・六本木。駅そばのバス停から、約2・5キロ離れたJR渋谷駅行きの都営バスが次々と発車していく。都内有数の繁華街を結ぶこの区間には、乗り換えなしで行ける地下鉄路線がない。

「いつも遅くなって電車がなくなるとタクシーで帰るけど、(終夜運行が実現すれば)みんなもバスを使うようになると思う」

 自宅がある六本木から渋谷によく遊びに行くという米国籍のミュージシャン、フレッド・シモンズさん(54)は、新たな都会の足の誕生を歓迎する。

 ロンドン、パリ、ニューヨーク、ベルリン…。猪瀬直樹知事は折に触れて各国の都市名を挙げ、24時間運行という“世界標準”を説いてきた。都は12月から渋谷−六本木での都営バス終夜運行を試行することを決定。運賃は400円と若者らの懐に優しい。

 ただ、悪影響を懸念する声もある。港区の候補の一人は「ただでさえ不況で厳しい民業を圧迫する恐れがある」と指摘。六本木で客待ちをしていたタクシー運転手、藤原秀一さん(67)も「ゆくゆく24時間化される路線が増えれば、タクシーは半分くらいになる」と危機感を募らせる。

 ▼採算か社会需要か

 「東京は人口密度や社会状況が欧米と異なり、比較対象になりにくい」

 交通に関わる調査・研究を行う「運輸調査局」情報センターの板谷和也主任研究員(38)は、他都市を例に挙げる猪瀬知事に疑問を呈する。

 パリの交通事情に詳しい板谷主任研究員によると、現地ではタクシー業界との競合について、「台数規制があるので日本ほど影響はない」という。運賃は民業を圧迫しないよう高めに設定、バス会社の赤字は自動車税やガソリン税で補填(ほてん)している。日本と比べ、採算より社会的需要を重視する側面が強い状況もある。

 「勤務する人員確保の問題も出てくる。24時間化は各方面に影響が大きい」と板谷主任研究員は話す。

 夜行バスの運行をめぐっては昨年、群馬県の関越自動車道で起こった乗客7人が死亡した事故が記憶に新しい。要因には慢性的な運転手不足によるバス会社の無理な人繰りもあった。安全確保は最低限の条件だ。

 ▼「やってみないと」

 もう一つ対策が求められているのが治安面だ。警視庁幹部は「六本木−渋谷間だけなら影響はあまりないだろう」と冷静に受け止める。その上で、「24時間化が郊外まで広がって交通ネットワークがつながり、深夜の移動が流動的になれば治安も厳しくなる」と悪化の可能性を指摘する。

 しかし、都営バスの試行路線を選挙区とする候補は「飲食店や遊興施設など新たなマーケットが広がる」と経済的メリットを強調した上で、「影響を見極めながら慎重に進めていくべきだ」との姿勢を示す。

 試験運行を前に懸念はあるが、猪瀬知事は「どういう客がどう利用するのか、データが収集できると思う。やらなければ分からない」と意欲を見せている。

【用語解説】交通機関の24時間運行化

地球規模になるビジネスへの対応強化、夜間経済の活発化による内需拡大などを目的に、地下鉄やバスを終日運行させる構想。ただし、東京は地下鉄については2車線相互運転のため、保守点検の必要性から導入は困難としている。