長野・愛知連続4人強盗殺人事件 西本正二郎

経緯:平成16年1月13日午後10時頃、元土木作業員の西本正二郎(当時27歳)は、JR名古屋駅からAさん(当時59歳)が運転するタクシーに乗車。春日井市の路上で停車させ、突然Aさんの首をナイフで斬りつけて殺害。売上金など1万8000円を奪って逃走した。

同年4月26日、長野県飯田市で一人暮らしの女性Bさん(当時77歳)の自宅に侵入してロープで絞殺。金員を奪って逃走した。遺体は翌日の27日になって尋ねてきた長女により発見された。更に、8月10日、長野県高森町で同じく一人暮らしのCさん(当時69歳)方の玄関から声をかけて、応対に出てきたCさんをナイフで刺して殺害。金員を奪って逃走した。

9月7日、高森町でパート従業員の女性Dさん(当時74歳)も同様に玄関に応対に出てきたところをナイフで殺害し金員を奪って逃走。西本は、この4人の殺害の他、10数件の窃盗を繰り返していた。

西本は、数年前までは土木作業員として生計を立てていたが、腰を痛めてからは土木会社を退職。好きなパチンコにのめりこみ消費者金融に200万円の借金があり、生活に困窮していた。犯行当時、西本はレンタカーを借りて寝泊りしながら犯行を重ねていた。

9月13日、西本は窃盗目的で飯田市内の元同僚宅に侵入したが、長野県警飯田署に住居侵入と窃盗未遂の容疑で逮捕された。警察の取調べで、西本はDさん殺害の犯行を自供したため、9月17日に殺人容疑で再逮捕された。

虚偽の供述と死刑判決:西本は、奪った現金の額面は起訴状と一致していないと主張したが、その他の起訴事実は認めた。弁護側は、「西本の不遇の生い立ちが犯行に影響を与えた」として情状酌量を訴えたが、平成18年5月17日長野地裁は、「事件の重大性と悪質性を鑑みると刑の軽減は相当ではない」と断じて、西本に死刑を言い渡した。これに対して、西本は「被害者、遺族に申し訳ない。死を持って償いたい」と最終意見陳述で述べていたが、「明らかにしたいことがある」として控訴した。

控訴審で西本は、「平成15年4月か5月頃、福島市内をレンタカーで走っていた時、女性を轢いてしまった。警察に届けると、今までの窃盗が発覚すると思い、ロープで絞殺して山中に遺棄した」と述べた。更に、控訴審でこのことを述べたのは、「真実を全て話すことで償いたかったから」と述べた。

この供述で、福島県警は延べ1000人を超す警察官を動員して捜査したが、遺体の発見はできなかった。11月20日なって、西本は、福島の女性殺害は嘘だったと供述し謝罪した。平成19年1月11日、西本は控訴を取り下げて死刑が確定した。


裁判焦点:西本被告は一件の事件で奪った現金の金額は起訴状より多いと訴えたが、他の起訴事実は全て認めている。
 弁護人は父親から暴力を受けるなどした生い立ちが犯行に影響したとして、被告の情状鑑定を地裁に請求した。検察側は、被告の生い立ちについて「特異な成育歴とは言えない」と反論。長野地裁は情状鑑定請求を却下した。
 最終弁論で弁護側は、西本被告の家庭環境や生い立ちなどについて触れ、「暴力のある家庭で両親の愛情なく育った西本被告は、どんなことでも自分で解決しようとするようになったが、責任を持って対処することはできず、正当な方向に進むことなく罪を重ねた」と指摘。また「被告は強盗や窃盗ではなくなぜ強盗殺人で金を手に入れるようになったのかはわからない」と述べた。また4人の殺害を自供したことが自首にあたるとし、「寛大な処分」を求めていた。
 検察側の死刑の求刑に対しては「死刑は憲法36条の残虐な刑罰の禁止などに違反している」と述べた。その上で「被害者遺族の気持ちは重々承知しているつもりだが、西本被告は被害者の冥福を祈り罪を一生背負って生きていくべき」と主張した。
 最終意見陳述に立った西本被告は「被害者や遺族の人には申し訳ないと思っている。自分には死刑という判決が適していると思う。死を持って償いたい」と述べた。
 土屋裁判長は、愛知県の事件は自首と認めたが、長野県の3件の事件については退け「重大性と悪質性をかんがみると刑を軽減するのは相当ではない」とした。幼少期に父親に虐待された経験が犯行の背景にあるとして弁護側が求めた情状酌量についても「被告人の刑事責任はあまりにも重大で極刑は免れない」と述べた。判決理由では「被告人は確定的殺意を持って犯行に及び、その態様は冷酷かつ残忍で被害者遺族の処罰感情が峻烈で、財産的被害も甚大。何ら落ち度のない被害者4人の生命を奪うなど被告の刑事責任は誠に重大を言わざるを得ない」と述べた。

 西本被告は明らかにしたいことがあると控訴。2006年10月11日の控訴審初公判で西本被告は、4件の殺人事件の前に殺人事件を起こしたと述べた。
 25日の第2回公判で西本被告は、「2003年4、5月ごろの日中、福島市内あたりをレンタカーで走っていた際、女性をひいた。軽傷だったが『警察に連絡する』と言ったので(窃盗など)以前の犯罪が発覚すると思い殺害した」と供述。西本被告は同年3月22日から3日間の契約で、飯田市でレンタカーを借り、その後、料金を滞納したまま車内で寝泊まりしており、車内にあったロープで後ろから女性の首を絞めたという。女性の年齢や服装には触れなかった。
 また、遺体を山中に捨てた際、検問中の警察官に「地元の人も来ない場所なのに何をしてるのか」と質問され、旅行者を装い「いろいろな県をぶらぶらしてます」と答えて通してもらったと証言。その後、女性についての報道がなく「福島の件が発覚しなかったので、自分がよく行く愛知で事件を犯しても分からないと思った」などと述べた。
 控訴審で供述した理由を「4件と違い、その場の感情で殺してしまった。自分でも納得できず、ずっと言えなかった。控訴したのは真実をすべて話すことが償いになると思ったから。(一審の)死刑判決には不服はない」と述べた。
 福島県警は裏付け捜査に延べ1000人以上を投入したが遺体は見つからなかった。11月20日夜、西本被告は女性殺害は嘘だったと供述した。
 11月29日の第3回公判で、西本被告は改めて「別の殺人」は虚偽であったことを認め、謝罪した。この日で公判は結審し、判決が2007年1月22日に言い渡される予定だった。
 2007年1月11日、西本被告は控訴を取り下げた。翌日、弁護人は西本被告と面会した上で、取り下げの有効性を争う申し立てを行わないことを明らかにした。

死刑執行:2009/1/29